事実により近い仮説に基づくユーザビリティテストを行うために学ぶデザインの心理学

この記事はソフトウェアテスト Advent Calendar 2017の13日目です。 

qiita.com

最近「正しいユーザビリティテストは何か」ということを考える機会があったのでそれについて書きます。

そもそも良い品質とは何か

先日このようなエントリが自分の中で話題になりました。

ddd.entaku-guild.com

ここで紹介されてるのは極端な例ですが、ちゃんとプロダクトの要件通りにテストを進め、バグの少ない十分なテストを実現できたにも関わらず、完成したプロダクトに全く魅力がないというのは起こりうる話です。

そもそもサービスを1から作る場合、人間中心設計ISO 9241-210)などの考えを元に調査による事実+分析による仮説などによるサービス設計することはとても重要ですが、このようなプロセスの重要性は理解されずにサービスがデザインを行われていることは非常に多いと思います。

その結果、コンセプトがハッキリしない要求仕様ができてしまい、たとえその要求に沿ったテストがうまくいっても良い品質のプロダクトにはなりません。

では、要求仕様をテストのフェーズで評価して改善していくにはどうすれば良いでしょうか?

一般的に、システムテストレイヤーの要求自体を改善していく評価手法としては、非機能要件テストユーザビリティテストなどがあります。*1

  • 非機能要件テスト:「どのように動作するか」という、所謂仕様書(機能要件)に書かれないレイヤーのテスト
  • ユーザビリティテスト: ユーザーインタフェース(UI)のユーザビリティ問題の抽出と原因探索を、ユーザー視点で行うテスト  

期待結果の正しさの証明

非機能要件テスト、ユーザビリティテストでよくある問題点として、テストの期待結果(指摘した内容)の正しさが証明できないということがあります。

例えば、「xx機能はユーザー視点だと◯◯という点で使いにくので、△△にした方がいい。」という指摘があったとしても、大抵はそれは"ユーザー視点"ではなく単なる"主観"の域を出ていない事が多いのです。

多くの場合に報告者自身もその指摘の正しさの証明することができず、突き詰めると「個人的にはこっちのほうがいい、自分は使っていてそっちのほうが便利だと感じた。」と言うのが論拠だったりします。

結果、そういった類の要望(≠不具合)は適用(修正)されないで取り下げられます。  

デザインの心理学を学ぶ重要性

"ユーザー視点"を"主観"ではなく"事実により近い仮説"に変えていくには、自分はデザインの心理学を学ぶことは一つの有効なアプローチだと考えています。

 サービスの恩恵を受けるのは利用者(ユーザー)です。利用者に対する理解(利用者はどう考え判断するか、心をとらえるのはどのようなものなのか、どのような誤りを犯しやすいのか)をすることはよりよいデザインをするうえでとても役立つものです。

インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針

 

スーザン・ウェインズチェンク氏は、「インターフェースデザインの心理学」で、デザインの心理学を実例を交えて幅広く紹介しています。

目次

これからのデザイナーは行動科学者たるべし

1章 人はどう見るか
    001 人は曲線を好む
    002 人は左右対称を好む
    003 過剰な錐体細胞
    004 中心視野で見るべきものは周辺視野で決めている
    005 周辺視野は危険を見て取り、感情に関わる情報を中心視野より素早く処理する
    006 周辺視野は低解像度画像のようなもの
    007 感情と視線の戦いでは感情が勝利する
    008 見つめることが逆効果になる場合も
    009 デザインの良し悪しの判断は瞬時に下される

2章 人はどう考え記憶するか
    010 人は2種類の思考を使っている
    011 記憶は容易に変わり得る
    012 反復により強化される記憶もある
    013 音楽は記憶とともに感情やその場の雰囲気も呼び起こす

3章 人はどう決めるか
    014 人はシステム1の思考で決めてしまう
    015 人はもっとも輝いているものを選ぶ
    016 複雑な決定をしなければならないときはフィーリングに従う
    017 難しい判断をしようとしているときには瞳孔が拡大する
    018 自信が決断の引き金になる
    019 意思決定に対するストレスの驚くべき影響
    020 人は特定の時期に意思決定する
    021 人は特定の記憶に従って決断する
    022 脳の活動を見れば決定が予言できる

4章 人はどう情報を読み理解するか
    023 読みにくい文章のほうが学習効果が上がる
    024 動詞より名詞のほうが人を動かす
    025 同音異義語は行動のきっかけとなり得る
    026 人はオンラインでは記事の6割しか読まない
    027 オンラインでの「読み」は通常の「読み」と違うものか?
    028 読む行為で重要なのは紙の本での多感覚な体験
    029 「古い」メディアを脱却する時は来ている

5章 人は物語にどう影響されるか
    030 物語で活性化する脳
    031 ピラミッド構造の物語は脳内物質の濃度に影響を与える
    032 物語に備わっている「注目を集める力」
    033 言動を大きく左右するセルフストーリー
    034 セルフストーリーを変えるなら「小さな一歩」から
    035 「公言」でセルフストーリーが強化
    036 ストーリーを変えると言動が変わる

6章 人は他人や技術とどう関わり合うか
    037 感情は伝染する
    038 人は動画広告を嫌う
    039 楽しく驚くような動画広告は目を引く
    040 情報を広めたいと思わせる感情は「ショック」ではなく「驚き」
    041 オキシトシンは「絆ホルモン」
    042 絆があれば熱意が増す
    043 警告機能のあるデバイスは認知能力を低下させる
    044 携帯電話が近くにあると一対一の人間関係にマイナスの影響が
    045 人は人間の特徴をある程度付与された機械を信頼する
    046 人が機械に感情移入することもある

7章 創造性はデザインにどう影響するか
    047 誰でもクリエイティブになれる
    048 創造性の第一歩は「実行注意ネットワーク」の活性化から
    049 クリエイティブになるためには「デフォルト・モード・ネットワーク」を活性化させる
    050 「アハ体験」を促す
    051 白昼夢が創造性を高める
    052 睡眠が創造性を高める
    053 雑音や音楽が創造性を高める
    054 ある程度の制約があるほうがクリエイティブになれる
    055 適度な共同作業が創造性を高める
    056 完璧主義がクリエイティブな活動を妨げることもある

8章 人体はデザインにどう影響するか
    057 人は脳だけでなく身体でも考え、感じる
    058 人は無意識にジェスチャーをする
    059 人の動作は身体的制約を受ける
    060 親指の届く範囲
    061 ユーザーと画面の距離は重要

9章 人はものをどう選び買うか
    062 人はオンラインショッピングと店舗でのショッピングを切り離しては考えない
    063 現金払いだと使用金額が減る
    064 人は認知的不協和が原因で買ったものに執着する
    065 人は認知的不協和が原因でものを買う
    066 人は数字に影響される
    067 オンラインショッピングは期待を高める

10章 世代、地域、性別はデザインにどう影響するか
    068 誰もがニュースのチェックや重要な用事にスマートフォンを使う
    069 スマートフォン利用の世代差はタスクによって異なる
    070 タスクが5分以内で済む場合、人はスマートフォンを使う
    071 「携帯電話の所有者=スマートフォンの所有者」とはかぎらない
    072 女性がインターネットにアクセスできない国は多い
    073 ゲーマーには世代差も性差もない
    074 人の目に何が魅力的と映るかは年齢、性別、地域で異なる
    075 人が望む選択肢の数は加齢で減少
    076 「オンライン」と「オフライン」のメンタルモデルには世代差が
    077 米国では65歳以上の半数以上がネットユーザー
    078 40歳を過ぎると老眼に
    079 加齢とともに見分けづらくなる青色
    080 65歳以上では1億人近くの聴力に問題が
    081 運動技能は60代半ばまで衰えない
    082 高齢者はセキュリティーのための質問に答えられない場合も
    083 人は加齢とともに記憶力への自信を失う
    084 2020年には全消費者の40%がZ世代に
    085 1歳児の1/3以上はタッチスクリーンが使える
    086 幼児は笑っているときのほうが学ぶ

11章 人はインタフェースやデバイスとどうやり取りするか
    087 動画の「流し見」を可能にするダイジェスト
    088 カルーセルは嫌われ者ではない
    089 人はスクロールをする
    090 運転中は車に話しかけることもやめたほうがよい
    091 「ゲーミフィケーション」を用いたほうが人を引きつけられるとは限らない
    092 ゲームには知覚学習を強化する効果がある
    093 選択肢は少なく
    094 人は健康管理デバイスを欲する
    095 体調を監視/調整する埋め込み型デバイスの需要は増えそう
    096 人は自分の脳でテクノロジーをコントロールできる
    097 人はマルチモーダル・インタフェースに適応する
    098 人は複合現実を受け入れる
    099 6億4,500万超の人に視覚障害聴覚障害がある
    100 人は感覚データを無意識に処理している

訳者あとがき
参考資料
索引

原題(100 Things Every Designer Needs to Know About People (Voices That Matter))の通り主にデザイナー向けの書籍ですが、デザインの心理学≒ユーザーの深層心理を学ぶことはテスト担当者にも同じく重要です。

一般的にユーザーが触れる立場に最も近く、開発工程の最後にプロダクトに触れるのがテスト担当者だからです。

インターフェースフェースデザインに関連する心理学の法則のいくつかの紹介

フィッツの法則

ユーザーインターフェース設計における普遍的な法則で、画面上でマウスなどの入力装置を使ってものを指し示すときにかかる時間を計測するモデル。ターゲットオブジェクトのサイズと距離に基づき、以下の計算式で算出される。面積が大きく、現在のポインター位置から近いものほど、指し示しやすい。

T = a + b log2 (D/W + 1)

速さ、正確さ、距離の間には関係があるということを示す法則。

書では、人が何かを行う時の処理は「負荷」と呼ばれ、基本的に「認知」、「視覚」、「運動」の3種類に分類できると説明しています。心的資源の消耗が多い順に並べると「認知」>「視覚」>「運動」の順になると言われます。

法則から考えられる心理

  • 操作対象が十分に大きいこと、またそれに簡単にたどり着けることを確認すること。
  • もっと使いやすくするために負荷を減らしたほうがよいかどうか、既存の製品の負荷を適切に評価すること。
  • 製品を設計する際、ユーザーが考えたり思い出したりしなければならない場合の負荷 (認知負荷)は心的資源をもっとも多く要求すること。
  • ある手法を用いると視覚負荷や運動負荷は増えるが、認知負荷を減らせるという場合、 そのような手法の採用を検討すること。

ヤーキーズ・ドットソンの法則

多少のストレスがあると注意力が高まり、作業効率(パフォーマンス)も高まるが、ストレスが強すぎると今度は低下する。

法則から考えられる心理

  • 難しい作業をしているときは、その作業に直接関係する場合を除き、色や音、動きなど気が散る要素を除いて覚醒(ストレス)レベルを下げてあげる必要があること。
  • 逆に退屈な作業を強要する場合、音や色、動きなどで覚醒レベルを上げてあげる必要がないか。
  • 人はストレスを感じていると画面上で起こっていることが目に入らず、たとえうまくいかなくても同じことを何度も繰り返してしまう傾向がある。

ジャムの法則

選択肢が多いときは、少ないときよりも判断を下しづらくなる。

6種類のジャムを並べたテーブルと24種類のジャムを並べたテーブルの2つを用意したところ、どちらのテーブルでも試食をした人の人数は変わらなかったが、最終的にジャムを購入した人の割合は6種類揃えたテーブルの場合は30%、24種類のテーブルでは3%と非常に大きな差が開いてしまった。結果から、選択肢を少なくすることで顧客のストレスを減らす販売戦略の根拠となっている。

法則から考えられる心理

  • 希望する選択肢の数を尋ねれば、きっと「たくさん」とか「全部」とかいった答えがユーザーからは返ってくることがあるが、そうした要求に屈しないように。
  • できれば選択肢の数を3つか4つに絞ること。それより多く提供しなければならないときには漸進的な方法をとること。例えば 3 つか 4 つの中から選択してもらうようにし、その次に下位の選択肢を提示するなど。

4の法則

人が記憶できる数は連続で4つまで。電話番号、郵便番号が xxx-xxx-xxxx 形式のような「-」のチャンク区切りになっているのは相応の理由がある。

法則から考えられる心理

  • 相手に提示する情報を4項目に限定できるなら素晴らしいが、そこまで徹底する必要はない。情報をいくつかのチャンクに分けられるのであれば、情報はもっと多くてもかまわない。
  • ひとつのチャンクに入れる項目は4つまでにする。
  • 人は記憶に頼らなくても済むようにするため、メモ、リスト、カレンダー、手帳など、 脳以外の「外付けの手段」に頼ることが多いという点に注意する。 

まとめ

ここで紹介した心理学の法則は一例ですが、インタラクションデザイン、心理学、ひいては人間中心設計などを学ぶことは「正しいサービスとはどうあるべきか」ということを考えるうえで大きなヒントとなります。

しかしここまで書いといて、ぶっちゃけ現場で起きてることは主観やトップダウンによる不合理な意思決定だらけです、みんなで頑張って抗っていきましょう。

*1:一方、インターネットマーケティングレイヤーでは、ユーザーインタビュー(ホールウェイテスト)やA/Bテストなどがあります。

JaSST'17 Tokyo に参加 & 登壇してきた。

JaSST'17 Tokyo に参加 & 登壇してきた。

登壇について

登壇したセッションは、Web.JaSST ~ Web Service QA Meeting in JaSST ~

セッションの趣旨としては、Web界隈の人が集まって開催していた Web QA Meeting という勉強会を JaSSTでやろうというもの。

今回は、更に「若手で選りすぐり!」みたいなことを事前に煽られてたのでハードルあげられて辛いって感じではありました。 。(そんな若くもないし。。)

登壇資料 

 

(スライドの説明不足をトークで補った感じもあるので、資料だけだとわかりにくいけど)発表の趣旨としては、現場での具体的な取り組みというミクロの内容ではなく、せっかくの JaSST で色んな産業ドメインの人が集まるのだから、「自分が複数の産業ドメインを渡って感じたテストのギャップ、それに対する取り組み」みたいなテーマで話した。セッションの聴衆もWebと他ドメインが半々くらいだったそうなので、結果良かったと思いました。

15分縛りで色々内容詰め込んだので、あまり纏まりがあった気はしないのだけれど、一番伝えたいことは最後2ページに書いてある、

「組織によるテストの違いを知るために積極的に情報交流して、それを現場に活かそうということ。社外で学ぶことは大事だなと。

この日の午前に聞いた 教科書に載らないテストマネジメント のセッションでも、「Q. 後進のお手本になるためにどんな努力をしているか?」という問に対して、先人の錚々たるテストマネージャーの皆さんが口をそろえて「とにかくやってみる」「社外に出て色々勉強する」という類の回答だったので、自分の伝えたいメッセージと一致していた気がしてよかった。

後は、改めてテストエンジニアとして成長するためにも、今後も変化を恐れないで常に新しいことを現場にもたらすモチベーションでやっていくことが大事だなぁと思った。

印象に残ったセッションまとめ

テスト分析とテスト設計勉強会 (JaSSTの前哨戦で開催された勉強会)

  • 「テスト分析は何をテストするのかわからないからやる、わかるならやらなくてよい」

教科書に載らないテストマネジメント

  • 個人的に一番色々ためになる話が聞けたセッション。
  • 「良いテストマネージャーとは、いつ何を聞かれても、テストの状況を説明できること」
  • 「プロジェクトが炎上した時に助けてもらえるように、普段からテスト担当者との信頼関係が大事。自分の意思、計画をちゃんと伝えるように。」
  • 「テストプロジェクトを成功に導く秘訣。利害関係者全員が現在の品質状況を一目で見れて共通認識を持てる何か(ダッシュボードとか)があるのはすごく大事」
  • 「テスト実行だけじゃなくて、バグ修正もテスト活動とセットなので、開発にバグの重要性を伝えて修正させるモチベーションを与えることが大事」

テスト現場のお悩み相談!!

  • 「Q. 質の低いドキュメントをベースにテストを行う場合、どうすればよいでしょうか? A. テストチームで仕様書を作ってしまう」

テストマネジメントツールSquashTMを利用した継続的テスト改善

  • Squash TM に選定するまで、40種類くらいのツールを候補として試用したということに驚いた。※情報交換会でも色々お話できてよかった。

品質保証活動の本質

  • 「品質管理はバグを出すのが仕事じゃなくて、QMSをいかに回すか」
  • 奈良さんがとにかく面白くて、サテライト会場が終止爆笑に渦に包まれていた。

その他印象に残ったキーワード

  • 「テストケース書かない」
  • 「仕様そのものに対する主導権はQAが持っている」

JaSSTについて

JaSST Tokyo 2回目なのだけど、日本最大のソフトウェアテストシンポジウムだけあって、ずっとテストのこと考えてます。みたいな人ばっかりで本当に面白いし刺激になった。

社内で決して学べないことだらけなので、今後も是非参加していきたいと思いました。

そして改めて、登壇の機会を与えてくれたくにおさんや中野さんには感謝の気持ちでいっぱいです!ありがとうございました!